放射線計測学:放射線検出器
励起を利用した検出器
この記事の目次
放射線検出器 -励起を利用した検出器-
シンチレーション検出器
シンチレータの種類
無機シンチレータ | 有機シンチレータ | 気体シンチレータ |
NaI(Tl)シンチレータ CsI(Tl)シンチレータ BGOシンチレータ ZnS(Ag)シンチレータ LiI(Eu)シンチレータ |
アントラセン スチルベン プラスチックシンチレータ 液体シンチレータ |
キセノン(Xe) クリプトン(Kr) アルゴン(Ar) |
無機シンチレータの種類・特性
- 検出効率が高い
- エネルギー解析が可能
- 光の減衰が長い ⇒ 高計数率特性は劣る
- 原子番号・密度が高い ⇒ 光子の測定に適する
NaI(Tl)シンチレータ
- 中・高エネルギーのγ線(X線)測定に適する
- 潮解性がある(アルミケースに密封されているため、α線・β線の測定はできない)
- 発光効率が高い
- シンチレータの中ではエネルギー分解能が良好(半導体検出器には劣る)
- 機械的衝撃や熱的変化に弱い
CsI(Tl)シンチレータ
- X線・γ線だけでなく、α線やβ線の分離測定が可能
- 潮解性がない
- 機械的衝撃や熱的変化に強い
- 発光効率はNaI(Tl)の約半分
BGOシンチレータ
- γ線に対して高い検出効率を持つ
- 潮解性がない
- 加工しやすく、ガンマカメラやPET、CTに利用されている
- 機械的衝撃に強い
ZnS(Ag)シンチレータ
- α線の測定にのみ用いられる(光の透過性が悪いため、薄い膜状に塗布して使われる)
- エネルギー測定には不向き
- NaI(Tl)と同じくらい高感度
LiI(Eu)シンチレータ
- 低エネルギー中性子(熱中性子)の測定に適する
- 吸湿性がある
- 6Li(n,α)3H反応によって放出されるエネルギーが大きいため、γ線との区別が容易
有機シンチレータの種類・特性
- 光の減衰時間が短い ⇒ 高速計数や早い同時計数に適する
- 実効原子番号が低い ⇒ α線やβ線の測定に適する
- 構成原子に水素を多く含む ⇒ 速い中性子の検出に適する
- 発光効率が低い ⇒ エネルギー分解能が悪い
- 発光量とエネルギーの比例性が悪い
アントラセン
- 主としてβ線の測定に利用される
- 昇華性がある
- 発光効率が高い
- 有機シンチレータの中では減衰時間が長い
プラスチックシンチレータ
- α線やβ線、γ線、高速中性子線などに利用される
- 大型のシンチレータが作成可能 ⇒ 自己吸収あり
- 薄いシンチレータも作成可能 ⇒ 重イオンの測定に利用される
- 減衰時間が短い ⇒ 高速計測に適する
液体シンチレータ
- 溶媒にはトルエン、キシレンなどが用いられ、溶質は第一(PPOなど)と第二(POPOPなど)からなる
- 第二溶質を波長シフタと呼び、主として低エネルギーβ線核種およびα線の測定に使用される
- 低エネルギーβ線核種(3Hや14C)の測定に使用されるが、α線や高速中性子線の測定も可能
- 減衰時間の差異を利用したパルス波形弁別測定が可能
液体シンチレーションカウンタの利点と欠点
利点
- 放射性試料自身の自己吸収がない
- 放射性試料とシンチレータとの間の空気層や検出器窓による放射線吸収がない
- 放射性試料は液体シンチレーション溶液で囲まれているので4π計測が可能
⇒幾何学的効率の補正が不要
欠点
- 放射性試料を溶解することに起因するクエンチング(消光現象)がある
- 科学クエンチング、酸素クエンチング ⇒ 発光以前
- 色クエンチング、濃度クエンチング ⇒ 発光以後
- ケミカルルミネセンス、フォトルミネセンスが生じる
- ケミカルルミネセンス:化学反応によって引き起こされる疑似発光で、アルカリや過酸化物の添加などで生じる
- フォトルミネセンス :サンプルやバイアルに紫外線が当たることで起こる疑似発光
- 放射性試料を液体シンチレーション溶液に溶解する必要がある
クエンチングの補正方法
- 内部標準(線源)法
- 外部標準(線源)法:ESC法
- 試料チャネル比法
- 外部標準(線源)チャネル比法:ESCR法
- 効率トレーサ法
熱ルミネセンス線量計(TLD)
熱ルミネセンス線量計の特徴
- グロー曲線(加熱温度と蛍光量の関係を表した曲線)を用い、グロー曲線内の面積を積分することにより照射した放射線量を求める
- エネルギー測定には適さない
- 積算線量の測定をする
熱ルミネセンス線量計の代表的な素子
- [CaSiO4:Tm]
- [Mg2SiO4:Tb]
- [LiF:Mg]
- [BeO:Na]
熱ルミネセンス線量計の長所・短所
長所
- 小型軽量であり、フェーディングが少なく比較的長時間の測定が可能
- 素子にもよるが、線量測定範囲が広い
- 照射後、リーダーを用いて迅速に測定可能
- 素子の選択範囲が広い
- 補償フィルタホルダを用いれば、X線、γ線及びβ線の混在場でも分離測定が可能
- 熱アニーリングにより繰り返し使用可能
短所 - 素子間の感度のばらつきが比較的大きい
- 使用開始時にアニーリングを必要とする
- 衝撃によって疑似発光する可能性がある
- 高温・多湿下ではフェーディングが大きくなる
- 素子によっては初期フェーディングが大きい
- 一度測定を行うと初期化されるため、再測定(再読取り)ができない
- 器械的強度が弱く比較的高価である
蛍光ガラス線量計
蛍光ガラス線量計の特徴
- 銀活性リン酸塩ガラスを用いた蓄積型放射線検出器
- 個人被ばく線量測定や長期環境モニタリングに適する
蛍光ガラス線量計の長所・短所
長所
- フェーディングが極めて少ないため、長期間の積算線量が測定可能
- 感度が高く、線量測定範囲が広い。また、線量率依存性が小さい
- 素子間の感度のばらつきが小さい
- 測定値読み取り後も何度も読み取ることが可能
- 熱アニーリングにより再使用が可能
- 小型軽量
短所 - 蛍光のビルドアップがある(70℃で30~40分間の加熱処理を行うか、室温であれば約24時間経過後に読み取り作業を小野なう必要がある)
- プレドーズ(ガラス素子固有の傾向成分)を測定値から差し引くことが必要
- 低エネルギーX線、γ線ではエネルギー依存性が悪くなる
光刺激ルミネセンス線量計(OSL)
光刺激ルミネセンス線量計の特徴
- 蛍光には「ルミネセンス(420nm)」と「レーザー光(532nm)」が混在しているため、バンドカットフィルタを用いてPMTに入る緑色の光をカットし弁別する
光刺激ルミネセンス線量計の長所・短所
長所
- 素子のフェーディングが極めて少なく、長時間の集積線量が測定可能
- 感度が高く、線量測定範囲が広い。線量直線性も良好
- 繰り返し測定可能
- エネルギー特性が良い
- 光アニーリングにより再使用可能
短所 - 素子間の感度のばらつきが若干ある
各種線量計の比較
TLD | 蛍光ガラス線量計 | OSL線量計 | |
検出部 | LiF,BeOなど | 銀活性リン酸塩ガラス | 酸化アルミニウム |
測定線量範囲 | 素子によって異なる | 10μGy~10Gy | 10μGy~10Gy |
測定対象放射線 | X,γ,β,熱中性子(LiF) | X,γ,β | X,γ,β |
読み取り方法 | 加熱処理 | 紫外線照射 | 可視光照射 |
読み取り回数 | 一度のみ | 繰り返し可能 | 繰り返し可能 |
アニーリング | 加熱処理 | 加熱処理 | 可視光照射 |
フェーディング | 素子によって異なる | 極めて小さい | 極めて小さい |
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