放射線計測学:計測の基礎理論
ブラッグ・グレイ(Bragg-Gray)の空洞理論
この記事の目次
ブラッグ・グレイ(Bragg-Gray)の空洞理論
二次電子平衡
二次電子平衡:物質中に小さな容積を想定し、そこに出入りするエネルギーの収支が釣り合っている状態
- 二次電子平衡は「絶対的電子平衡」と「相対的電子平衡」に分けられる
- ブラッググレイの空洞理論は絶対的電子平衡下でのみ成り立つ
絶対的電子平衡
絶対的電子平衡:物質中のある容積で発生した二次電子の初期運動エネルギーとその容積中に吸収されたエネルギーが等しい状態
- 絶対的電子平衡下では空気吸収線量と空気衝突カーマは等しい
相対的電子平衡(過渡平衡)
相対的電子平衡:二次電子の飛程の間にX線、γ線が減弱する場合、容積内に付与されるエネルギーよりも二次電子の初期運動エネルギーが小さくなり、「吸収線量>衝突カーマ」の関係になっている状態
- 放射線治療領域のエネルギーでも一般に相対的電子平衡になる
ブラッグ・グレイの空洞理論
空洞理論
- ブラッググレイの空洞理論:媒質中に空気を入れた場合の電子平衡に関する考察から、電離箱を用いて物質中の吸収線量を測定するための理論
- この理論はあらゆる放射線・物質に適応できる
Em=jgas・Wgas・Sm,g
Em:物質中の吸収線量(Gy)
jgas:空洞気体中で単位質量当たりに生じたイオン対数(kg-1)
Wgas:気体中でイオン対を生成するのに必要な平均エネルギー(eV)
空気ではWair=33.97(eV)=5.44×10-18(J)
Sm,g:物質と気体に対する質量阻止能比
上記の式を変形すると
Em=Q/m・Wgas/e・Smed/Sgas
となる
空洞理論の成立条件
- 空洞に流れ込んでくる二次電子の飛程の長さ程度では一次線は減弱しない
- 空洞内で一次線は相互作用しない
- 空洞の大きさは二次電子の飛程に比べ十分に小さい
- 二次電子の挙動は空洞が存在しても変わらない
- これらの条件は絶対的電子平衡の成立下でのみ満たされる
空洞理論の仮定
- 空洞がない状態では荷電粒子平衡が成立している
- 媒質内においた空洞は荷電粒子フルエンスに影響しない
- 媒質内においた空洞は荷電粒子エネルギーと方向の分布に影響しない
- 空洞内で生成される荷電粒子は無視される
- 質量衝突阻止能比はエネルギーによって変化しない
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