放射線計測学:計測の基礎理論
相互作用
この記事の目次
相互作用
光子と物質との相互作用
光電効果
電子対生成
- 電子対生成の閾値
0.511MeV+0.511MeV=1.022MeV
光核反応
干渉性散乱
- トムソン散乱:光子と自由電子との干渉性散乱
- レイリー散乱:光子と軌道電子との干渉性散乱
コンプトン散乱
光子の減弱
- 線減弱係数
- 単位長さあたりに減弱する割合
- 物質の減弱係数がμ(cm-1)の時、光子はI0e-μxに減弱する
I=I0e-μx
半価層・1/10価層
-
半価層
- フィルタがない時の線量率が1/2に減弱するのに必要なフィルタ厚(H1/2)
- 半価層が大きいほど透過力の大きいX線(エネルギーの高いX線)をなる
- H1/2=0.693/μ
-
1/10価層
- フィルタがない時の線量率が1/10に減弱するのに必要なフィルタ厚(H1/10)
- H1/10=2.303/μ
-
均等度
- 均等度=第1半価層(H1)/第2半価層(H2)
- 均等度は1より小さくなる
-
不均等度
- 不均等度=第2半価層(H2)/第1半価層(H1)
- 不均等度は1より大きくなる
-
半価層測定
- エネルギー依存度の小さい線量計を使用する → 電離箱線量計
- 線量計に散乱線が入射しないような配置にする → 吸収版と線量計は離す
散乱線が入射すると減弱曲線の傾斜が小さくなり半価層は厚くなる - 吸収板は入射X線のエネルギーによって使い分ける
- Al:10keV~10MeV、Cu:35keV~8MeV (診断領域X線)
- Pb:350keV~3.5MeV
- 吸収板は高純度の材料を用いる
- Al:99.8%
- Cu:99.2%
- Pb:99.9%
電子と物質の相互作用
弾性散乱
- 電子線が持つ運動エネルギーは変わらず方向だけが変わる現象
- 弾性散乱は原子核に対する散乱現象であり、原子核のクーロン力によって起こるものからクーロン散乱またはラザフォード散乱とも呼ばれる
非弾性散乱
- 物質内の電子に衝突することで電子線の方向だけでなく運動エネルギーも変化する現象
- 電子線の持つエネルギーは衝突した電子に与えることで減少する
- 電子線が原子を構成する軌道電子に非弾性散乱を起こすと、その原子は電離または励起を起こす
制動放射
- 原子核の強いクーロン力によって電子線の方向が大きく曲げられ、電子線が持つ運動エネルギーを連続X線として放出する現象
荷電粒子のエネルギー損失
-
衝突損失
- 電子線の衝突損失は、物質内の電子との非弾性散乱によるものである
- 電子線の非弾性散乱は原子の電離・励起を引き起こす
-
放射損失
- 電子線の放射損失は、原子核や電子のクーロン力によるものである
- クーロン力による制動放射では、電子線のエネルギー損失を制動X線として放出する
-
衝突損失と放射損失の比
- 電子線の衝突阻止能をScol、放射阻止能をSradとし、電子線の運動エネルギーをE(MeV)、物質の原子番号をZとすると、ScolとSradの比は
Srad/Scol≒EZ/820
となる。
例)鉛の場合、Z=82のためE=10(MeV)の時、衝突阻止能と放射阻止能が等しくなる
- 電子線の衝突阻止能をScol、放射阻止能をSradとし、電子線の運動エネルギーをE(MeV)、物質の原子番号をZとすると、ScolとSradの比は
電子の飛程
-
飛程:荷電粒子が物質中に入社した点から運動エネルギーを失って制止するまでの直線距離(cm)
- 飛程に物質の密度(g・cm-3)を乗じた「g・cm-2」の単位を用いることで物質の種類に左右されにくくなる
- 電子線は多重散乱を起こすことで飛程が直線的ではないため、入射点から静止点までの最大値を「最大飛程」という
-
最大否定Rと最大エネルギーの関係
- β線の最大飛程の測定では、アルミニウム板を用いた「フェザー法」という方法がある
- フェザー法ではβ線の最大エネルギーをE(MeV)、最大飛程をR(g・cm-2)とすると、以下の式が成り立つ
R=0.407E1.38 (0.15MeV<E<0.8MeV)
R=0.542E-0.133 (0.8MeV<E)
R=0.5E (近似式) - この式はアルミニウムに対して得られた式であるが、ほとんどの物質に対して近似的に使用できる
陽電子
- 陽電子線が物質中を通過するとき、陽電子線が起こす相互作用は、同じ運動エネルギーのβ線や電子線の場合とほぼ同じである。しかし、物質内で陽電子線が運動エネルギーを失うとき、β線や電子線と異なる「陽電子消滅」という現象を起こす
- 陽電子消滅:陽電子線が物質内で運動エネルギーを失い、静止状態になるとすぐに近くの自由電子(陰電子)と結合する現象
- 陽電子消滅が起こると、結合した陽電子と陰電子が消滅し、代わりに0.511MeVのエネルギーを持った2本の「消滅放射線」と呼ばれる電磁波が互いに180°反対方向に発生する
(厳密には必ずしも180°ではなく平均して0.5°程度の差異がある。このことを消滅放射線の角度動揺と呼び、PET検査における空間分解能の劣化の一因となる)
重荷電粒子と物質の相互作用
エネルギー損失
- 重荷電粒子線のエネルギー損失には衝突損失と放射損失があるが、制動放射による放射損失は無視できる。このため、重荷電粒子線のエネルギー損失は衝突損失が主である。
衝突損失 ≫ 放射損失 - 重荷電粒子の衝突損失は物質内の電子のクーロン力による相互作用
- 重荷電粒子線はまっすぐな飛跡に沿って付近の原子の軌道電子をはじき出し、原子の電離や励起を起こしながら運動エネルギーを失っていく
阻止能
-
物質中における重荷電粒子線の阻止能は、特別な場合を除き放射損失による放射阻止能を無視できるため、衝突損失による衝突阻止能Scol
S ≒ Scol -
衝突阻止能はべーての式によって表される
Scol ∝ Z2/V2 = Z2M/2E ∝ Z2M/E
Z2:荷電粒子の原子番号
V2:荷電粒子の速度
E :荷電粒子の運動エネルギー
M :荷電粒子の質量- 荷電粒子の質量に比例する
- 荷電粒子の原子番号(電荷数)の2乗に比例する
- 荷電粒子の運動エネルギーに反比例する
- 荷電粒子の速度の2乗に反比例する
比電離・ブラッグ曲線
- 比電離:飛跡に沿った単位長さ当たりに電離されたイオン対の数。単位は(イオン対・cm-1)
- 重荷電粒子は物質中をまっすぐに進みながら運動エネルギーを失っていき、静止する直前に阻止能が非常に大きくなる
- 比電離と阻止能の関係
- 阻止能S=W値×比電離
重荷電粒子の飛程
- α線の空気中の飛程
- R=0.318E3/2
- 荷電粒子線の飛程Rと阻止能S、荷電粒子線の運動エネルギーEとの関係
- R∝E2/z2M
- R∝Mv4/z2
中性子と物質の相互作用
中性子線の相互作用
中性子の分類
名称 | エネルギー |
---|---|
低速中性子 | 0~1keV |
中速中性子 | 1~500keV |
高速中性子 | 500keV以上 |
- 低速中性子は熱中性子と熱外中性子に分かれるが熱平衡状態ではほとんどが熱中性子(0.025eV)
中性子の吸収
-
中性子の吸収では、原子核が中性子線を吸収することで質量数が1増加した複合核になる。複合核は非常に不安定な励起状態であり、中性子捕獲や核変換を起こし、γ線や荷電粒子を放出することで基底状態に戻ろうとする。
-
中性子捕獲
- 中性子線による複合核がγ線を放出して基底状態になる現象で、放出されるγ線は捕獲γ線と呼ばれる
- 中性子捕獲では、反応の前後で核種の種類は変化しない
- 中性子捕獲は低速~中速中性子線のエネルギー範囲で起こる
- 中性子捕獲の断面積は中性子の速度をvとすると「中性子捕獲∝1/v」となる
→中性子の速度が遅い(エネルギーが低い)と中性子捕獲の起こる確率が高い
-
核変換
- 中性子線による複合核が荷電粒子を放出して別の種類の各種に変化する現象
- 核変換は高速中性子で起こりやすい
中性子の散乱
-
中性子と原子核による弾性散乱は、散乱前後で中性子線の運動エネルギーが保存されるかどうかで弾性散乱と非弾性散乱に分けられる
-
弾性散乱
- 散乱前後で中性子線の運動エネルギーが保存される場合で、原子核の重さによって散乱の方向が変わる
- 散乱前後で中性子線の運動エネルギーが保存される場合で、原子核の重さによって散乱の方向が変わる
-
非弾性散乱
- 散乱前後で中性子線の運動エネルギーが保存されない場合
- 原子核に移行した中性子の運動エネルギーの一部がγ線として放出されるので、運動エネルギーが保存されない
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