放射線化学:元素・核種
放射性標識化合物について
この記事の目次
放射性標識化合物
標識化合物のトレーサは微量でも検出が可能なため、生体反応や化学反応を乱すことなく目的化合物の代謝・動態反応を高感度で検出が可能となる。
メリット
- 生体が生きた状態で生体内の化合物の代謝・動態を観察できる。
- 分離せずに生体内からの放射線を測定することで化合物定量ができる。
- 分布状態を写真で記録できる。
デメリット
- 生態系研究には使用不可
合成の種類
化学合成法
化学合成反応を利用して標識化合物を合成する方法。
メリット
- 特定の位置に標識可
- 目的標識化合物の収率が高い
- 放射化学的純度が高い標識化合物を得れる
- 比放射能が高い標識化合物を得れる
デメリット
- 複雑な化合物の合成は難しい
例:グリニャール合成法(14C標識化合物の合成)・スズ還元法・放射性ヨウ素の標識法
生合成法
生体代謝を利用して天然放射性核種を合成する方法。
メリット:合成困難な天然有機化合物を合成することができる
デメリット:標識位置・標識数や比放射能・収率等の制御は困難
例1:グルコース(14C標識)の合成
- 植物は14CO2を基質として光合成を行う。
- 14Cで標識されたデンプンが合成される。
- デンプンを加水分解することで14Cで標識されたグルコースが精製される。
例2:アミノ酸(14C標識)の合成
- 14CO2でクロレアを培養する。
- 光合成によって、高比放射能の14Cタンパク質が合成される。
- 加水分解して14Cで標識されたアミノ酸が精製される。
同位体交換法
同位体交換反応を利用して標識化合物を合成する方法で、主に水素やハロゲンで起こる。
メリット
- 操作が簡単
- 放射能収率が高い
デメリット
- 再度、同位体交換を行うと、標識同位体が外れやすくなる
例:ウィルツバッハ法(3H標識化合物の合成法)
この方法は簡易的に行えるが、標識位置が安定しない上に3H標識が外れやすく、比放射能が低くなる。また、同位体交換反応以外にトリチウムガスの付加反応による副産物生成により、放射化学的純度が低くなる。
ホットアトム法
核反応によって生成した放射核種(ホットアトム)が持つ反跳エネルギーを利用して標識する方法。
メリット
- 複雑な化合物を簡単に生成可能
- 短半減期の放射性核種の標識が可能
- 比放射能が高い
デメリット
- 放射化学的収率が低い
- 標識位置が不安定
- 副反応生成物を伴うため、分離が困難
99mTc標識法
99mTcは99Mo―99mTcジェネレーターに生理食塩水を流して99mTcO4-の化学形で溶出され、この99mTcO4-を標識したい化合物が入っているバイアルに入れる。バイアルの中には塩化第一スズ(SnCl2)が入っており、還元剤としての役割がある。Tcの酸化数は+7であり、SnCl2により99mTcO4-を還元させ、+3~+5の99mTcイオンに還元して標識化合物と合成する。
この塩化第一スズ(SnCl2)を還元剤として用いる方法をスズ還元法という。
放射性ヨウ素の蛋白標識法
放射性ヨウ素の蛋白質の標識法には直接法と間接法があり、標識には125Iが用いられる。
直接標識法:I+をTryやHis等のアミノ酸残基に標識する。
- クロラミンT法
- ラクトパーオキシダーゼ法
- ヨードゲン法
間接標識法:TryやHisが含まれない場合、Lysのアミノ酸残基に放射性ヨウ素を標識する方法。
- ボルトンハンター法
-
クロラミンT法
ヨウ素の標識法のうち簡便で最もよく利用されている方法。比放射能が高い標識化合物が得れるのが特徴だが、クロラミンTは酸化力が強いためタンパク質の変性に注意する必要がある。 -
ラクトパーオキシダーゼ法
酸化剤としてはクロラミンTより弱い。標識原理はクロラミンT法と同じ方法で過酸化水素下でラクトパーオキシダーゼによってNa125Iが酸化される。
特徴
- クロラミンT法より比放射能は低い
- 酵素を用いるため、タンパク質の変性は抑制される
- レセプターアッセイの標識に用いられる
-
ヨードゲン法
酸化剤としてはラクトパーオキシダーゼより弱い。ヨードゲンの酸化作用でNa125Iが酸化。特徴はラクトパーオキシダーゼと同じ。 -
ボルトンハンター法
クロラミンTを使ってボルトンハンター試薬とNa125Iを反応させ、125Iで標識されたボルトンハンター試薬を生成する。そしてこの試薬を用いてタンパク質に導入することで、間接的に125Iを標識することができる。
特徴
- 比放射能が低い
- 標識に時間がかかる
- タンパク質の変性は抑制される
標識化合物の純度
放射性核種純度
全放射能に対する目的核種の放射能の割合
放射性核種純度=目的核種の放射能/全放射能×100 [%]
放射性核種純度検定にはγ線スペクトルの測定が適切である
放射化学的純度
全放射能に対する目的化学種の放射能割合で、標識率も同義。
放射化学的純=目的化学種の放射能/全放射能×100 [%]
放射化学的純度検定一覧
- ろ紙クロマトグラフィー
- 薄層クロマトグラフィー
- ガスクロマトグラフィー
- 高速液体クロマトグラフィー
- 電気泳動法
- 逆希釈分析法
放射能濃度
単位体積・質量中に含まれる放射能量で、物質の状態によって単位が変化する。
- 液体・気体:Bq/cm3,Bq/m3
- 個体:Bq/g,Bq/kg
保存
放射線分解
放射線効果ともいい、標識化合物からの放射線によって近辺の標識化合物が分解される現象をいう。
- 一次分解:放射線による直接的分解
- 二次分解:ラジカルによる分解
α線>β線>γ線の順で分解のしやすさがある。また、放射線の飛程が短く・エネルギーが低い方が吸収されやすく、分解しやすい。
保存法
標識化合物の保存の際は、放射線分解・化学変化・微生物作用による分解を防止することが重要。以下に保存法をしめす。
- 分散して保存
- スカベンジャーを加えて保存
- 遮光して保存
- 溶媒・同位体担体で希釈して、比放射能を低くして保存
- 不活化ガスを封入して保存
- 低温保存。注意:トリチウムは低温にしすぎると濃縮が生じるため注意
- 安定剤(エタノール)・制菌剤を加えて保存
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