放射線化学:放射性核種の利用
放射化学純度・分離
この記事の目次
放射化学分離・純度
用語
- 担体
放射性核種を効果的に分離・精製を行うために加える非放射性の物質。キャリアとも言う。 - 無担体
担体を加えてない状態。キャリアフリーとも言う。 - 同位体担体
担体が目的放射性核種の安定同位体の担体。同位体担体を加えると比放射能が低下する。また、目的放射性核種と同位体担体を分離することはできない。 - 非同位体担体
目的放射性核種と異なる元素だが、化学的性質が類似することから同じ行動をすることができる担体。非同位体担体を加えた後に目的放射性核種と担体を分離すると、無担体の放射性核種を得ることができる。 - 保持担体
共存核種が随伴して沈殿しないよう溶液中に留めておくもの。 - スカベンジャー(補足剤)
目的放射性核種を溶液中に残し、不要な放射性核種を沈殿させる担体。 - 捕集剤(共沈剤)
目的核種を沈殿させる物質。 - 同位体効果
化合物に同位体を加えた際、同位体同士の質量の相違が物理的・化学的行動や反応速度が変化する現象で、質量の小さい水素原子で顕著に現れる。水素の中でも軽水素である1Hと重水素である3Hの間で最も大きく現れる。物理的性質に差となって現れる。 - 同位体交換
分子またはイオン中の原子が他の原子またはイオン中の同位体と入れ替わる反応。ウィルツバッハ法が主な代表例。
共沈法
溶液中の放射性核種から担体を利用して目的放射性核種を沈殿させる方法で捕集剤を用いる、使用する担体は同位体担体・非同位体担体。
メリット:簡単な作業で行える・大量の試料を短時間で操作可能・溶解度積未満でも目的放射性核種を沈殿
デメリット:分離係数が低い。この欠点を補うため、クロマトグラフィー等の分離能力の高い方法と組み合わせることが一般的。
例:共沈法による140Ba-140Laからの140Laの分離法について
- 140Ba-140Laの溶液に保持担体であるBaCl2と非同位体担体で共沈剤として働くFeCl3を添加する
- NH3水を加える
- 沈殿物質として140La(OH)3とFe(OH)3が共沈する。
- 3の沈殿物をろ過して塩酸を加えて溶解させる。
- 溶媒抽出法にてイソプロピエーテル使用し、Fe3+をイソプロピエーテル相に抽出させる。
- 塩酸溶液水相に無担体の140La3+が分離される。
溶媒抽出法
2種類の混ざらない液相の片方に溶解している放射性核種を、他の液相に抽出する方法。この方法は水溶液中の金属イオン・有機化合物の分離に適している。
メリット:操作が簡易・抽出が迅速・高分離能力・遠隔操作可・無担体分離可・常用量でもトレーサ量でも適用
水相から有機相への抽出率は分配係数によって決定する。
分配係数:放射性核種が水相からどれだけ有機相に抽出されたかを表した比で以下の式で示す。
分配係数(D)=Co/Cw=有機溶媒中の放射性核種の全濃度/水相中の放射性核種の全濃度
この係数の値が高値を示すほど、有機相に多く抽出され、分離操作効率が高くなる。
抽出率:有機相にどれだけ抽出されたか
抽出率(E)=有機溶媒相の放射能/有機溶媒相の放射能+水相の放射能×100(%)
また、Eを有機相容量Vo(ml)、水相容量Vw(ml)で表すと、
抽出率(E)=D/D+Vw/Vo また、有機相容量=水相容量の場合、E=D/D+1となる。
クロマトグラフィーの種類と原理
クロマトグラフィーとは固定相と移動相間における分配の差を利用して混合物から各成分を分離する方法。
- カラムを使わないクロマトグラフィー
- ペーパークロマトグラフィー
固定相:担体(ろ紙)表面を覆う水分
移動相:展開溶液
Rf値(移動率)を使って比較を行い、この値は物質によって固有の数値を有する。
Rf値=スポット移動距離/展開溶液移動距離=l/L - 薄層クロマトグラフィー
固定相:シリカゲル・アルミナ
移動相:展開溶液
Rf値(移動率)を使って比較を行い、この値は物質によって固有の数値を有する。
Rf値=スポット移動距離/展開溶液移動距離=l/L
- カラムを使うクロマトグラフィー
- 吸着クロマトグラフィー
固定相:シリカゲル・アルミナ・活性炭・多孔性ポリマー
移動相:液体 - イオン交換クロマトグラフィー
固定相:イオン交換樹脂
移動相:液体
このイオン交換樹脂はスルホン酸基やカルボキシル基を含んだ陽イオン交換基やアミノ基や4級アンモニウム基を含んだ陰イオン交換基を持っている。
分布係数Kd=CR/Cs=樹脂相イオン濃度/溶液中イオン濃度
このKdが大きいほどイオンの樹脂に対する選択性が大きい。
- ゲルクロマトグラフィー
固定相:多孔性ポリマー・ポリスチレン・シリカゲル
移動相:液体
分子の大きさによる溶出速度の差を利用。大きい分子は早く溶出し、小さい分子は遅く溶出する。 - ガスクロマトグラフィー
固定相:吸着剤や多孔物質表面の不揮発性液体
移動相:窒素・ヘリウム・水素・二酸化炭素・アルゴンなどのキャリアガス(不活性)
気体試料もしくは物質を気化させ、カラム内の固定相を通して分離する方法。
- 液体(高速液体)クロマトグラフィー
カラムクロマトグラフィーのカラムを移動相の液相や溶出液の検出を装置化するなどして高性能化をしたもの。液体の移動相をポンプなどによって加圧してカラムを通過させることで、短時間かつ高性能に分離検出することが可能。
分離法
- 電気泳動法
電荷を有した物質を電場の中で分離する方法。この方法では試料のイオン移動度・イオン電荷・イオン半径の違いで分離される。 - 電気化学的法
金属のイオン化傾向を利用して分離。イオン化傾向とは水溶液中での金属の陽イオンへのなりやすさを表している。以下にイオン化傾向の大きい順に並べたものを示す。
K>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>H>Cu>Hg>Ag>Pt>Au
例:64Cuの電気化学的分離法
64Cu2+の硫酸銅液の亜鉛版を入れるとZn>Cuのイオン化傾向により溶液中にZn2+が溶出され、亜鉛版に64Cu2+が析出する。
- ラジオコロイド法
ラジオコロイドの微少粒子を形成し、器壁に吸着する性質を利用してろ紙を用いてろ過をし、分離を行う方法。
90Sr―90Yの無担体分離
-
昇華・蒸留法
放射性核種の蒸気圧の違いを利用し、目的核種を試料から分離・精製する方法。主に昇華性や揮発性が高い物質が対象。 -
ジラード・チャルマー法
核反応の反跳効果を利用して分離する。メリットとして比放射能の高い放射性核種を迅速に精製することが可能になる。
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カテゴリ:元素・核種
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