放射線化学:放射性核種の利用
放射性核種の化学的利用
この記事の目次
放射性核種の化学的利用
化学分析
放射化学分析法
試料に含まれる放射性核種の定量を放射能を測定することによって決定する分析方法。
目的物:放射性物質
放射分析法
非放射性物質に定量的に結合する標識化合物を加えて沈殿物を生成させ、沈殿物もしくは上澄み液の放射能を測定することで非放射性物質の定量を行う分析方法。
直接法:沈殿物測定
間接法:上澄み液測定
目的物:非放射性物質
例:溶液中のCl-の定量
- 直接法なら沈殿物110mAgClの放射能を測定
- 間接法なら上澄み液110mAg+の放射能を測定
放射化分析法
非放射性の資料に放射線を照射し、生成された放射性核種からエネルギー・半減期等を定量する分析方法。この方法では熱中性子を用いるのが一般的である。生成された放射性核種の放射能は以下の式で表すことができる。
A=δfN(1-e-λt)
δ:核反応断面積[b]
f:粒子束密度[cm-2s-1]
N:ターゲット核数[個]
λ:生成各種の壊変定数[s-]
t:照射時間[s]
メリット
- 検出感度が高い
- 微量分析が可能
- 非破壊検査が可能
- 試薬混入による影響が出ない(放射化後)
- 多元素同時分析が可能
デメリット
- 定量精度が低い
- 自己遮蔽の影響が大きい
- 原子炉や加速器等の大がかりな装置が必要
- 放射化の影響で目的放射性核種以外の物質が生成されれしまう
PIXE法
放射化分析法の一種。元素に放射線を照射した際に放出される特性X線のエネルギーと強度を測定することで、物質を構成する元素の定量を行う分析方法。
- X線やγ線を用いた分析法:蛍光X線分析法(XRF)
- 陽子・重陽子・α粒子のうち、特に高エネルギーを用いた分析法:PIXE法
PIXE法の特徴として、極少量[μg]の試料のみで高感度の分析が可能。
同位体希釈分析法
同位体同士の化学的性質の類似性を利用して、試料中の物質の定量を行う分析方法。
メリット
- クロマトグラフィーや溶媒抽出法等で一部でも純粋に分離できれば定量が可能
直接希釈法
目的化合物が非放射性化合物の場合に、その放射性同位体(重量・放射能・比放射能の正確な数値がわかっている)を加えて目的化合物の定量を行う方法。以下に非放射性化合物の質量を求める式を示す。
目的の非放射性化合物の質量はx、比放射能・放射能は非放射性なので0とする。
添加する放射性同位体の重量はX、比放射能をS0とすると、放射能はX・S0で表される。
以上から、混合した化合物の重量はx+X、非放射能をSとすると、放射能はS(x+X)で表すことができ、混合前後の放射能より、
X・S0=S(x+X)となり、式変形すると、
x=X(S0/S-1)となる。
逆希釈法
目的化合物が放射性かつその比放射能が既知である場合に、その非放射性同位体を加えて目的化合物の定量を行う方法。以下に放射性化合物の質量を求める式を示す。
目的の放射性化合物の質量はx、比放射能をS0とすると、放射能はx・S0で表される。
添加する非放射性同位体の質量はX、比放射能・放射能は非放射性なので0とする。
以上から、混合した化合物の重量はx+X、比放射能をSとすると、放射能はS(x+X)で表すことができ、混合前後の放射能より、
x・S0=S(x+X)となり、式変形すると、
x=X・1/(S0/S-1)となる。
二重希釈法
目的物が放射性化合物だがその比放射能が既知でない場合に用いられる方法。未知試料から2試料とり、各資料に非放射性化合物を加えて逆希釈を行い定量する。
アイソトープ誘導体法
アミノ酸等の目的が複雑な標識化合物の場合に用いられる方法。
不足当量法
同位体希釈分析法では分析の際に希釈を行うために過剰量の化合物が必要になるが、この方法では一部を純粋に分離した混合物の放射能測定のみで定量できる。よって重量測定せずに放射能測定のみで目的物質の重量を求めることができる。
トレーサ
特定の物質行動を追跡するために用いられる添加物。
トレーサに求められる性質
- 目的物質と同じ行動を行う物質であること
- 目的物質と区別ができる性質を有すること
- 薬理効果をもたらさないこと(生体投与の場合)
- 極微量の投与でも検出可能
オートラジオグラフィ
放射性核種の分布をフィルムやIPなどで視覚的に得る方法。主にβ線・低エネルギーγ線を用いる。
原理
- 写真乳剤に放射性同位元素を密着させる
- 写真乳剤の銀粒子が感光する
- 感光した黒化度から放射性同位元素の分布・飛程等を分析
メリット
- 半永久保存が可能
- 分布の測定精度が正確
- 感度が高い
デメリット
- 黒化度からの定量的評価が難しい
- 分析に時間がかかる
- オートグラフィの種類によっては難易度が高く、高い技術を要する。
種類
X線フィルムを用いる方法
- マクロオートラジオグラフィ
- ミクロオートラジオグラフィ
- 超ミクロオートラジオグラフィ
- 飛程オートラジオグラフィ
X線フィルムを用いない方法
- IP法:フィルムと比較して感度・定量性が高く、Dレンジも広いメリットがある。
アクチバブルトレーサ法
安定同位体をトレーサ(非放射性)として利用し、放射化分析で検出・定量を行う方法。野外調査や環境中での試験に利用される。アクチバブルトレーサは55Mn,79Br,115In,151Eu,164Dy等が用いられ、いずれも放射化分析の感度が高く検出される元素である。中でも天然の存在比が低く、放射化断面積が大きい151Euは使用頻度が高い。
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カテゴリ:元素・核種
放射性標識化合物について