診療画像機器:診断用X線装置および関連機器
X線発生装置
この記事の目次
X線発生装置
[TOC]
X線管の種類・構造・特性
固定陽極X線管
固定陽極X線管は陽極が固定されているX線管であり、現在の撮影機器において、主に可搬型撮影機器(ポータブル撮影)や歯科用等の小型装置に用いられている。X線管自体の熱量用が小さいため、焦点寸法が小さくできない特徴がある。
1)陰極 フィラメント(タングステン製)・集束電極(鉄・ニッケル製)・陰極スリーブ(鉄・ニッケル製)等が構成部品
2)陽極 全体は銅製であり、その先端部分のみにタングステン製の板がターゲットとして設置されている。このターゲット部分に陰極からの高
速電子を衝突させ、X線を発生させる。衝突によりターゲット自体が高熱を発するため、その熱に耐える素材としてタングステンが用
いられる。また、排熱自体は銅製の陽極体を通して熱を絶縁油に逃がして冷却する構造となっている。
回転X線管
回転陽極X線は陽極がベアリングとシャフトにより回転する構造を持つX線管であり、主に一般撮影装置やCT等の大型装置に用いられている。この陽極の回転構造により、固定陽極では蓄積された熱が冷却された衝突面と入れ替わるため、熱を分散させることが可能になる。それにより、管電流を上げX線の強度を上昇させることが可能。
1)陰極 フィラメント(タングステン製)・集束電極(鉄・ニッケル製)・陰極スリーブ(鉄・ニッケル製)等が構成部品
搭載されているフィラメントは大焦点・小焦点の2つがあり、用途に応じて切り替えることができる。
2)陽極 ターゲット(タングステン)・シャフト・ベアリング・ローター等が構成部品
固定陽極と同じように材質はタングステンが用いられているが、さらに陽極全体の熱容量の増大を目的としてモリブデンを貼り合わせ
ている。また、モリブデンの裏面にグラファイトを貼り合わせることでさらに熱容量を増したものもある。
X線管付属機器(可動絞り・X線ろ過装置)
1)可動絞り X線管球の放射口に取り付けて使用する。この可動絞り内は複数の羽根が取り付けられており、被ばく線量の低下と共に画質の向上にも貢献している。
奥羽根 焦点外X線を低減
下羽根 散乱線と可動絞りからの漏れ線量の低減
上羽根 照射野の調節及び決定(鉛製)
X線管に最も近い位置から奥羽根・下羽根・上羽根といい、可動絞りを境に上側を下羽根、外側を上羽根としている。上羽根を可動させるとその動きに連動して下羽根と奥羽根が可動する仕組みとなっている。そして、X線照射野は投稿用ランプからの可視光をミラーで反射させて偏光させ、X線照線上に投影する順序となっている。
可動絞りの固有ろ過値の大部分はにらによる吸収で、約0.8~1.5mlAL当量となっている。また、X線源装置(X線管・可動絞り)の総ろ過は70㎸未満の歯科用X線装置で1.5mlAl当量以上、その他X線装置は2.5mlAl当量以上でJIS規格として規定されている。また、可動絞りの性能を以下に示す。
1. ①光照射野の平均照度はJIS規格としてSID1mで100ルクス以上であること。
2. ②実際のX線照射野とそれに対応する光照射野との誤差は2%を超過しないこと。
3. ③最大照射野はSID65cmで35×35cmを超えないこと。
4. ④最小照射野はSID100cmで5×5㎝以下とする。
5. ⑤漏れX線量は歯科用装置で管電圧125㎸以下では1時間当たりの積算値が0.25m㏉を超えない。
6. ⑥歯科用装置以外の装置では1時間あたりの積算値が1.0mGyを超えない。
2)X線ろ過装置 取り外し不可:固有ろ過(X線管ガラス窓・絶縁油・X線管容器の窓材)
取り外し可 :付加ろ過(光照射野ミラー・選択式フィルター) この2つを合わせて総ろ過という。
X線管の性能特性
1)陰極からの熱電子は陽極のターゲットに衝突すると焦点を形成し、以下のように定義されている。
正焦点 フィラメント前面から放出された電子により形成される焦点
副焦点 フィラメント後方や側方から出た電子により形成される焦点
実焦点 熱電子がターゲット面に衝突する面
実効焦点 実焦点を基準軸⋆に沿って垂直投影した面(実効焦点サイズは低管電圧・大電流程おおきくなる)
*基準軸:X線管軸に対して垂直かつ実焦点の中心を通過する線
実効焦点面と基準線のなす角度をターゲット角度といい、この角度が変化することにってX線の特性が変化する。X線は熱電子がターゲットに対して内部まで入りこむことで発生し、その深さは表面~内部まで広がりがある。また、陽極は陰極に対して20度傾いて設置されている。以上のことから、X線はその方向によって線質や強度が異なって放出される。陽極側を通過するX線の内、エネルギーの低い軟X線はターゲット内で吸収・減弱されてしまうため線質は硬く線量は弱い。また、陰極側を通過するX線は吸収が少ないため線質は軟らかく線量は強くなる。このように吸収・減弱を受けることで強度分布が不均等になる現象をヒール効果といい、ターゲット角度が小さいほど大きくなる。
熱電子がターゲットに衝突した際、衝突時のエネルギーによってターゲット内部から2次電子が発生する。この2次電子が再びターゲットに衝突するこで焦点外X線が生じる。2次電子は焦点近傍に再衝突するものが多いが、遠方に再衝突する2次電子程エネルギーは高い。それに伴い発生する焦点外X線も高くなる。発生率は固定陽極X線より回転陽極X線のほうが多く、コントラストを低下させる。
2)X線管の損傷理由の1つに熱電子衝突による管球温度の上昇がある。損傷を抑えるためエネルギーの許容負荷以下でX線管を可動させる必要があり、この許容負荷は以下の種類がある。
短時間負荷 数秒以下のX線曝射(レントゲン等の撮影が主) 焦点面温度で制限。
長時間負荷 数十秒から数十分のx線曝射(透視等の撮影が主) 陽極全体にエネルギーが蓄積するため陽極全体の温度で制限
混合負荷 短時間負荷と長時間負荷を混合したもの。透視と撮影を交互に使用する場合や、短時間撮影を頻繁に使用する場合に相当。
- 短時間許容負荷について 以下の条件で許容値を大きくすることができる。
実焦点面積・陽極回転数・焦点軌道直径を大きくする、 ターゲット角度・リプル百分率を小さくする
☆陽極回転数と焦点軌道直径について
0.1秒以下のX線曝射の短時間付加における比負荷は次の式で表す(同一ターゲット角度のX線管の場合)
比負荷=K√n・d K:比例定数 n:陽極回転数 d:焦点軌道直径
2. 公称陽極入力(最大入力)とは陽極入力(kW)の許容最大値を指す。回転陽極X線管では0.1s、固定陽極X線管では1sで規定される。
陽極入力(X線管入力)とはX線曝射時にX線管に加えられる電力を指し、次の式で表す。
電力P=U・I・f×10-3乗(kW) U:管電圧(kV)
I:管電流(mA)
f:リプル百分率の定数 1.0:リプル百分率が10%以下
0.95:リプル百分率が10%から25%
0.74:リプル百分率が25%以上
3. ヒートユニットとはX線管入力を表す単位を指し、2ピーク波形を基準としたヒートユニット(HU)が定義される。
1)2ピーク形整流回路・単相半波整流回路・自己整流回路
HU=U・I・t
2)6ピーク形整流回路
HU=U・I・t・1.35
3)定電圧回路
HU=U・I・t・1.41
4)コンデンサ式
HU=0.71・C(U12乗ーU22)
U:管電圧(kV) I:管電流(mA) t:負荷時間(s) c:コンデンサ容量(µF) U1:放電開始時の管電圧 U2:放電終了時の管電圧
また、HU値の単位変換としては、1HU=0.71W・s=0.71J=0.71cal
- VーI特性(管電圧ー管電流特性):管電流は管電圧とフィラメント温度により以下のような特性を持つ。
図のA領域は空間電荷制限領域といい、陰極温度を一定とし陽極ー陰極間電圧Vpを上げていくと空間電荷電流IpはVpの上昇につれて流れる領域。これは管電圧が低い時、すべての熱電子は陽極に到達できずい陰極前面も空間に残留するためである。この領域は陰極温度に関係なく、管電圧に依存して管電流が流れる。さらに管電圧を上昇させるとBの領域のように管電流はプラトーになる。この領域を温度制限領域という。VpとIpは次式の関係がある。
Ip=K(Vp3/2乗/d2乗) K:定数 d:陰極ー陽極間距離(m)
温度制限領域でのプラトーとなった管電流のことを飽和電流といい、陰極が放出している全電子量で求められ、フィラメントの絶対温度の2乗とボルツマン因子に比例する。温度制限領域ではフィラメント温度を上昇させることで熱電子量を増加させ、B1からB2のように飽和電流を上げることができる。よって、この領域ではフィラメント温度によって管電流が定まる。
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カテゴリ:画像・映像処理及び出力装置
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